姉妹でダブルスを組み、デフバドミントンで活躍する矢ケ部紋可さんと真衣さん。2024年12月にマレーシアで開催された第10回アジア太平洋ろう者競技大会では、女子ダブルス優勝、混合団体戦優勝という見事な成績を残しました。東京2025デフリンピックでの活躍に期待がかかる矢ケ部さん姉妹に大会に向けての意気込みや見どころなどを伺いました。
バドミントンを始めたのは姉の紋可さんが先だったそうですね。
紋可さん「小学1年生の時に、ろう学校の先生がデフバドミントンのクラブを立ち上げ、そこに誘っていただいたことがきっかけでした。最初は完全に遊び感覚でしたね。」
真衣さん「バドミントンをしている姉がとても楽しそうで、自分も練習に連れていってもらったのは確か5歳の時。それ以来、ずっと二人でバドミントンを続けています。」
2021年からはお二人でペアを組み、世界の舞台で戦っていらっしゃいます。
紋可さん「私は前衛で徹底的に守り、妹の真衣が得意のスマッシュで思い切り攻めるというのが私たちのプレースタイル。姉妹でも得意なものが違うのでバランスがちょうどいいんです。」
姉妹だからこそのメリットも多そうです。
紋可さん「二人いればいつでも練習ができるし、ダブルスで試合にも出られるというのはいいですよね。
何より、姉妹で結果を残すことで、両親がすごく喜んでくれます。逆に、試合で負けてしまった時などは、家にネガティブな雰囲気を持ち帰ってしまうというデメリットもあるんです。」
仲良し姉妹というイメージが強いのですが、ぶつかることもあるのですね。
真衣さん「姉はほんわかした性格。逆に私は負けず嫌いで、1回のミスに対しても怒ってしまうようなことがあるんです。といっても、お互いに引きずるタイプではないので、どちらからともなく声を掛け合ってすぐに元に戻ります。」
紋可さん「私が2年前に実家を離れ、東京で暮らし始めてからはとくに妹の存在の大きさを感じます。妹が頑張っているからこそ、自分も頑張らなきゃと思えるし、一緒に世界を目指そうと思えるから前を向ける。たまに福岡に帰って家族と一緒にいる時間は最高の癒やしです。」
2024年12月にマレーシアで開催された第10回アジア太平洋ろう者競技大会では、女子ダブルスで優勝。金メダルを獲得しました。
真衣さん「2023年7月に開催された世界デフバドミントン選手権大会ではメダルを期待されながら、結果はベスト8。それがとにかく悔しくて、また同じ思いをしたくないと1年間、必死で練習を積み重ねてきました。それだけに、今回の優勝で技術やスタミナ面だけでなく気持ちも大きく成長できたと自分自身、実感できたことがうれしいです。」
厳しい展開の試合もあったと聞きました。
紋可さん「7-11と4点差をつけられた時があったのですが、焦ることなく、『大丈夫、大丈夫!このセットも絶対に取れる!』と、試合中も二人で密に会話し、逆転に成功。自信を持てるだけの練習と、絶対に諦めない気持ちと、二人のポジティブなコミュニケーションが生んだ結果だと思います。」
いよいよ今年、東京でデフリンピックが開催されます。お二人の活躍にも期待がかかります。
紋可さん「前回のブラジル2021デフリンピックでは、準々決勝で今まで一度も勝てなかった同じ日本代表のチームに勝つことができて、メダル確実と言われていました。ところが準決勝を前に、新型コロナウイルス感染症の影響で、日本選手団全員の帰国が決まり、途中棄権になってしまったんです。あの時の悔しさは今でも忘れられません。」
真衣さん「だからこそ、今度の東京2025デフリンピック では絶対に勝って表彰台の一番上に二人で立って、金メダルを手にしたいんです。」
紋可さん「出場できるかは3月に行われる選考会で決まるので、まずはその間に課題を克服し、自信を持って大会に臨めるように自分に磨きをかけることが大事。そして、応援してよかったなと思っていただけるようなプレーができるように頑張りたいです。」
日本での開催ということで、注目も集まりそうですね。
真衣さん「デフリンピックはまだまだ認知度が低いので、今度の大会を機にオリンピックやパラリンピック同様に皆さんに知ってもらえる大きなチャンスだと思います。何より、大会を通じて、きこえない人に対する理解も深めていただきたいという期待も持っています。」
デフリンピックを初めて知る人も多いと思います。観戦をより楽しめる見どころなどを教えてください。
真衣さん「競技そのものは健常者の大会とほぼ同じです。その中で注目してほしいのは手話。特にサッカーやバレーボールなどの団体競技は、手話が飛び交いながらの試合展開が見ていて面白いと思います。」
紋可さん「あとは国それぞれに手話も違えば、感情の表し方も違うので、そうしたところにも注目を。ちなみに、インドの皆さんはとっても感情豊かに試合をされるので私たちも思わず見入ってしまいます。」
東京2025大会では、選手や応援の皆さんなど、多くの方が日本にいらっしゃいます。お二人のおすすめスポットをぜひ教えてください。
紋可さん「品川駅からすぐの場所にあるマクセル アクアパーク品川は、デジタルアートを駆使した空間でのドルフィンパフォーマンスがおしゃれで楽しくて、東京っぽいなと感動しました。」
真衣さん「私はまだ行ったことがないのですが、主なコミュニケーション手段として手話が取り入れられているスターバックス コーヒー nonowa国立店もいいですよね。」
紋可さん「私はすでに2回行ったのですが、おすすめです。手話以外に音声や指さし、筆談でも注文可能で聴覚に障がいの有無にかかわらず、新しい気付きを得られる場所だと思います。」
真衣さん「東京以外でしたら、私が住んでいる福岡県の太宰府にも足を運んでいただきたいです。学問の神様で有名な太宰府天満宮は太鼓橋や楼門など境内には見どころもたくさん。食べ歩きも楽しめるので観光にはうってつけです。豚骨ラーメンやもつ鍋などのご当地グルメもぜひ堪能してください。」
矢ケ部紋可
YAKABE Ayaka
2002年生まれ、福岡県出身。3歳の時に聴覚障がいが発覚。小学1年生の時にデフバドミントンのクラブに誘われたことがきっかけで競技を開始。高校2年生で日本代表に選出。ブラジル2021デフリンピックでは混合団体戦準優勝、女子ダブルスベスト4。第10回アジア太平洋ろう者競技大会で女子ダブルス優勝、混合団体戦優勝。株式会社ゼンリンデータコム所属。
矢ケ部真衣
YAKABE Mai
2004年生まれ、福岡県出身。2歳の時に聴覚障がいが発覚。姉の後を追うように、5歳からバドミントンを始める。中学2年生で日本代表に選出。ブラジル2021デフリンピックでは混合団体戦準優勝、女子ダブルス・シングルスベスト4。第10回アジア太平洋ろう者競技大会で女子ダブルス優勝、混合団体戦優勝。筑紫女学園大学在学中。