東京2020オリンピック競技大会で正式種目として採用されたスケートボード。とりわけ女子スケートボードでは、10代日本人選手の活躍が注目を集めています。今回話を伺ったのは、パリ2024オリンピック競技大会のスケートボード女子ストリートで14歳にして金メダルを獲得した吉沢恋さん。パリ2024大会を振り返るとともに、スケートボードの魅力や今後の展望を語っていただきました。
吉沢さんがスケートボードを始めたのは、どんなことがきっかけだったのでしょうか。
「7歳の時に、先にスケートボードを始めていた4歳上の兄が練習しているスケートパークに連れて行ってもらったのがきっかけです。見よう見まねでボードに乗ってみたものの、思うようには滑れなくて。怖さもあるし、転べば痛いし、ケガもする。正直、最初の頃は、あまり面白さを感じられずにいました。」
それでも、続けようと思ったのにはどんな理由があったのですか。
「元々負けず嫌いで、諦めるのが嫌な性格なんです。パークで滑っている人たちの技をまねしてやっているうちに、少しずつ技を攻略し、大会に出場できるまでになりました。楽しさを感じるようになったのは、小学5年生で出場したCHIMERA A-SIDE GAMESで1位になったことがきっかけです。その前年にも出場したのですが、その時は4位で。自分の中では、良いところまで行けると思っていたのに、結果が残せなかったことが悔しくて。今度は絶対に表彰台に立ちたいと思って、練習を重ねていただけに、表彰台のてっぺんに立てたうれしさや達成感が忘れられなくなりました。」
悔しさがあったからこその努力、そして優勝という結果だったのですね。
「悔しいという気持ちを持てたからこそ、意欲的に練習に取り組むようになったし、大会で勝つにはどうしたらよいかを自分で考えるようにもなりました。それと、大会を通じてお互いに刺激し合える友達ができたというのも、競技を楽しめるようになった大きな要因です。」
ちょうど吉沢さんが大会に出場する醍醐味を感じ始めた小学6年生の時、東京2020大会が開催されたのですね。
「さすがオリンピックはレベルが高いなと思いながらテレビを見ていました。ただ、その時に女子ストリートで金メダリストとなった西矢椛選手がやっていた技を自分も練習していた時だったので、これを完璧にしたら自分も同じ舞台に行けるのかもしれないと思いました。」
西矢選手の活躍を見て、新たな目標が見つかり、その1年後には世界大会初出場を実現させます。
「ローマで開催された大会(ストリート・スケートボード・ローマ2022)だったので、海外に行くのも、海外の選手と話すのも初めてでドキドキしましたが、それ以上にワクワクも大きくて。大会でも6位に入り、自分の実力も試せた貴重な体験でした。」
その後もパリ2024大会の予選シリーズに出場し、上海大会で3位、ブダペスト大会で優勝を果たし、ついに世界ランキング1位に。そして、念願の日本代表に選ばれました。
「せっかく世界に手が届いたのだから、行けるところまで挑もうという気持ちで臨んでいただけに、ブダペスト大会で1位を取れたことは本当に奇跡のような感覚で。優勝したことでオリンピックに行けたし、金メダルを取れたし、こうしてインタビューを受けることもできた。自分の人生を大きく変える転機になりました。」
世界大会初優勝をつかんだ、決め手となった技は?
「ビッグスピンフリップボードスライドという、ボードを縦と横に回転させた後にレールにかけて滑る技で、2年前くらいからずっと練習していました。自分の中では最も難度が高い技を準備して、それがここぞという時に成功できたことがうれしかったし、大きな自信にもなりました。」
そして、初出場となったパリ2024大会。オリンピックの雰囲気はいかがでしたか。
「これまで出場した大会とは比べものにならないくらい選手の数も観客の数も歓声もすごかった。さすがというか、これがオリンピックというものなのだというくらいの圧を感じました。」
その中で雰囲気にのまれずに実力を発揮し、圧巻の金メダル獲得。素晴らしい快挙です。
「決勝では、この大会のために用意してきた技をしっかりと決めることだけを意識していました。自分の努力と挑戦が実を結んだという結果がとにかくうれしかったです。」
大舞台に立ちながら、他の選手と談笑するなど、リラックスして挑んでいる姿が印象的でした。
「私は元々、大会の雰囲気そのものを楽しみたいタイプなんです。会場で流れている音楽や会場の皆さんの歓声を聞いているのが楽しいし、テンションが上がります。そもそも順位を気にして滑っているわけでもなくて。本番では、この日のために自分が練習を重ねて用意してきた技をしっかりと決めることが自分の目標なので、会場に入ったら、その場の雰囲気を味方につけて挑むのみです。」
金メダリストという立場になり、周囲からの注目度も変わったのではないでしょうか。
「自分が憧れていた存在から、憧れられる存在になるというのは大きな変化かもしれません。ただ、金メダルを取ったところで、日常の過ごし方が変わることもないですし、自分自身に変化は感じないです。今は、次のオリンピックを目標に自分の得意とする技に磨きをかけて、吉沢恋ならではの滑りを進化させるのみ。そのために必要なのは日々の練習。その努力はこれからも続けていくつもりです。」
吉沢さんから見たスケートボードの魅力を教えてください。
「スケートボードって国籍や年齢関係なく、競技者同士がとても仲が良いんです。たとえ大会で順位を競っている相手でも、お互いに頑張って練習してきていることを知っているので、その選手の技が成功して、自分の順位が下がったとしても、『すごい!よく決めた!』って心から思えるんです。それがスケートボードという競技の特徴であり、魅力だと思います。」
観戦などでいらっしゃる方たちにおすすめしたい東京のスポットをぜひ教えてください。
「まずは東京2020大会でスケートボード競技が開催されたlivedoor URBAN SPORTS PARKをおすすめしたいです。スケートボードパークとしては難易度がとても高いですが、世界の一流選手はこんなコースに挑んでいるのだということが分かって刺激になるはず。もちろん、気軽に楽しめるコンテンツもたくさんあるので、ぜひ足を運んでいただきたいです。あとは、私自身スイーツが大好きなので、お気に入りのドーナツ屋さんがある表参道や原宿エリアでスイーツ巡りをするのもおすすめです。」
YOSHIZAWA Coco
2009年生まれ、神奈川県出身。7歳からスケートボードを始める。2021年日本スケートボード選手権女子ストリートで5位。海外での大会初出場となったパリ2024オリンピック競技大会の予選シリーズのローマ大会で6位、上海大会で3位、ブダペスト大会で優勝を飾ったことで世界ランキング1位となり、日本代表に選出される。パリ2024大会のスケートボード女子ストリートで金メダル獲得。ACT SB STORE所属。