01/10/2025

24歳で市民ランナーからトップアスリートに
-谷川真理さん

INDEX

マラソンは30kmを過ぎてからがレース本番

会社員だった24歳の時にマラソンデビューし、1991年東京国際女子マラソンで優勝するなど、国際的なランナーとして活躍した谷川真理さん。今も現役のランナーとしてさまざまな大会に参加する傍ら、マラソンを通して幅広い社会貢献活動を行っている谷川さんに、マラソンの魅力や2025年3月2日に開催される東京マラソン2025の見どころなどについて語っていただきました。

副賞を楽しみに数々の大会で優勝

谷川さんがマラソンを始めたのは24歳の時。何がきっかけだったのでしょうか。
「元々走ることが好きで、中学高校と陸上部に所属していました。高校時代は800mで2回、関東大会に出場したものの、とくに目立った成績を残すこともなく高校卒業と同時に競技からは遠ざかっていました。再び走ることに目覚めたのは、大手町にある企業でOLをしていた時のことです。同僚に誘われて皇居にお花見に出かけた際、気持ち良さそうに走るランナーの姿を見て、自分も走ってみたいと無性に思ったんです。早速、翌日にはお昼休みを利用して皇居の周りを走り始めました。」

久しぶりに走った感覚はいかがでしたか。
「ただただ気持ち良かったです。それまで自分が経験してきたランニングは部活動が中心で、どこかやらされているような感覚で走っていたので、そこに楽しさを感じたことはありませんでした。それが皇居ランでは広い空や木々の緑など景色を眺めながら自分のペースで自由に走れる。純粋にランニングを楽しめることがうれしくて、昼休みの皇居ランが習慣になり、走るスピードもどんどん上がっていったんです。そんなある日、皇居ラン仲間から大会の出場を勧められて。」

それが、東京マラソンの前身である東京都民マラソンですね。
「そうなんです。日本人でトップになったらオーストラリアのシドニーで開催されるマラソン大会に招待されるということを聞いて、俄然やる気になりました。頑張れば無料で海外旅行に行けるんだと、猛練習。結果、マラソンを始めて10カ月ほどで出場した東京都民マラソンで日本人トップになり、シドニーのCity2Surfというマラソン大会に東京都の代表として出場できました。これで味を占めて、副賞などのご褒美を目当てにあらゆる大会に出場しては優勝し、実業団から声をかけていただきアスリートとして活躍する道が開けていきました。」

忍耐は苦しい けれどもその実は甘い

マラソンの魅力や醍醐味はどんなところにあると思いますか。
「走りながら感じる気温や湿度、風、香り。完走したときに目にする風景や耳にする人々の声。そして、走り終わった後に食べる食事のおいしさなど、マラソンをすることで五感が研ぎ澄まされたように思います。もちろん楽しいことばかりではなく、長距離を走るのは苦しいし、つらいこともある。でも、マラソンにはまぐれということがないからこそ、鍛えれば鍛えるほど強くなるし、コツコツと積み上げた努力の先には、自信をつけた自分との出会いや自己ベストの更新など、新しい世界が必ず待っている。そう思えることも頑張る理由につながっています。」

練習のつらさや走る際の苦しさはどのようにして克服されるのでしょうか。
「誰しも1年365日毎日楽しいわけではなくて、つらいときや苦しいときもある。だったら、今日という24時間の中で練習の時間を頑張れば、その後には達成感やおいしいご飯を食べてゆっくりできる楽しい時間が待っている。『苦しい時間なんてほんの少しだよ』と自分に言い聞かせています。」

これまで出場された大会でとくに印象に残っている大会について教えてください。
「1994年にベルギーのブリュッセルで開催された世界ハーフマラソン選手権大会はいろんな意味で印象に残っていますね。まず、レース結果でいうと、最終盤のデッドヒートの中で2位でゴールし、準優勝。優勝まであと一歩という悔しさもありますが、それ以上に、ゴール地点になっていたグラン・プラス周辺の歴史的建造物が立ち並ぶ街並みの壮麗さや、どこからともなく漂うベルギーワッフルの甘い香りが今でも脳裏に刻まれています。レース前は甘いものを控えていただけに、準優勝のご褒美に食べたワッフルのおいしさもまた忘れられません。」

記録や順位だけではなく、マラソン大会を幅広い意味で楽しまれているのがよく分かります。
「1年に30本くらいの大会に出ていたときもありましたからね。今では体力もすっかり落ちてしまいましたが、それでも各地のさまざまな大会に出場する際には、ランナーの皆さんを応援し、応援され、共にその土地の景色や香り、食、人との出会いを存分に楽しんでいます。」

東京の名所を巡る東京マラソン

東京マラソンは来年で18回目を迎えます。さまざまな大会の中でも、東京マラソンならではの魅力はどんなところにあると思いますか。
「なんといっても東京を代表するランドマークや名所を巡るコース設定ですね。高層ビルが立ち並ぶ東京都庁前からスタートし、日本橋、浅草、銀座、そして東京駅を背に、皇居に向かってゴール。東京のど真ん中の贅沢なルートを自分の足で走り抜けるという非日常の体験は、東京マラソンに出場する選手だけが得られる特権です。」

ランナー目線でコースの特徴はいかがでしょう。
「高低差は最高で約40mあるものの、アップダウンが少なく、中盤以降フィニッシュ地点まではほぼ平たん。大きな上りがないため好タイムが出やすい点が大きな特徴です。実際に走ってみると、カーブが多いのは気になりますね。ただ、逆に直線が多いと走りが単調になったり、先の長さにやる気をそがれることもあります。そうしたことを考えると、カーブを曲がるごとに見える景色が変わるというのは走っていて刺激にもなるし、気持ちの切り替えがしやすいというメリットもあります。」

東京マラソンの攻略法や観戦する際の見どころを教えてください。
「42.195kmという長距離を走るフルマラソンを完走するには、どんな大会でも30kmまで余力を残しておくことは必須。つまり、30kmまでは長いウォーミングアップで残りの12.195kmでどこまで力を発揮できるかがフルマラソンという競技のポイントです。東京マラソンのコースの場合、30kmの日本橋浜町付近でペースメーカーが外れ、華やかな銀座や西新橋、そしてゴールの東京駅へと向かうあたりがレースの最高潮。東京タワーや増上寺が待ち構える日比谷通りを往復する芝公園付近はトップランナーたちがラストスパートをかける勝負どころ。直線コースで見やすいので観戦スポットとしてもお薦めです。」

ランナーを支援する活動を続けたい

谷川さんがお薦めする都心のランニングスポットをぜひ教えてください。
「私がマラソンを始めるきっかけとなった皇居エリアや代々木公園、日比谷公園など、初心者でも走りやすいランニングスポットはいくつもあります。その中でも夏場に私がよく行くのは上野恩賜公園です。寺院や美術館、博物館といった文化施設が点在していて視界も開けていますし、木陰が多いので日差しを避けられるのがありがたい。ただ、ランニングコースとしては整備されていないので、走る際は歩行者の少ない時間帯にするなど、他の公園利用者の妨げにならないように十分に配慮してくださいね。」

ご自身の今後の目標を教えてください。
「日本の大会に出場する海外選手のアテンドや海外でトレーニングをする日本人選手をサポートする活動にも加わってみたいなと思っています。実際に、そうした取り組みをされている日本人の方にお会いする機会があり、刺激を受けました。そのためには、まずは英会話など語学力を高めることが目下の課題です。さらには気候変動や海洋ごみなどの環境課題に対して、マラソン大会などのスポーツイベントを通じて私にも出来ることで貢献したいと考えています。」

谷川真理
TANIGAWA Mari
1962年生まれ、福岡県出身。高校時代は中距離選手として活躍。会社員として働いていた24歳からマラソンを始め、1991年の東京国際女子マラソン、1992年のゴールドコーストマラソン、1994年のパリマラソンで優勝。92年に都民文化栄誉賞、朝日スポーツ賞等を受賞。今なお現役ランナーとしてマラソン大会に出場する傍ら、講演活動、ランニング教室、メディア出演の他、地雷除去や難民救助などの社会貢献活動も積極的に行っている。