健康的な筋肉美で女性の美しさを競い合うビキニフィットネス競技。国内最高峰の大会で5連覇の快挙を達成し、絶対女王として競技人気をけん引しているのが安井友梨さんです。2023年には、IFBB世界フィットネス&ボディビル選手権で日本人初の世界一に輝き話題を集めました。現在40歳。年齢を重ねてなお、“自分史上最高の美”を追求し続ける安井さんに競技への思いを語っていただきました。
安井さんがビキニフィットネス競技を始めたのは30歳とのこと。何がきっかけだったのでしょうか。
「発端は、体重80kgあった母がジムに通って20kgのダイエットに成功したことでした。家系的に太りやすい体質で、私も20代のときに最高で70kgあったんです。そこで、母に続けと自分も同じジムに行き始めたもののまったく痩せない…。見かねたトレーナーさんに『痩せてどうなりたいかという具体的な目標を立てないとダメ』とアドバイスされて。その時にたまたま40歳の主婦でビキニフィットネス競技のチャンピオンになった方がいることを知ったんです。写真で見たその方の生き生きとした表情や引き締まった体が忘れられず、その方が通われているジムがたまたま自分の住む地域にあったことから、思い切って足を運んでみることにしました。」
ダイエットからビキニフィットネス競技へと、ハードルが一気に上がりましたね。
「案の定というか、ビキニフィットネス競技をされている方の姿を間近で見たら、『あそこまでになるのは絶対に無理!』とおじけづいてしまって。
すると、コーチに、10カ月後に大会があるからそこを目指してやってみるのはどうかと提案されたんです。大会がどういうものかも分からなかったのですが、とりあえず痩せてカッコいい体形になれるのであればと一か八かトライしてみることにしました。」
どんなトレーニングが行われたのでしょうか。
「最初の頃はトレーニングの大半がマッサージとストレッチ。体をほぐし、筋肉や骨を整えるところから始まり、少しずつ筋トレを取り入れるという流れです。体に変化が表れたのは3カ月後くらい。体重が減るだけではなく、腹筋が割れて、お尻も引き締まってきたんです。新陳代謝がよくなったからなのか、持病だと諦めていた皮膚炎の症状が治まり、肌まできれいになって。鏡に映る自分の体も表情もどんどん変わっていく喜びはそれまでの人生で味わったことのないものでした。」
そして目標としていた10カ月後の大会で見事、優勝に輝きます。
「自分としてはうれしいというより、驚きの方が大きかったですね。コーチに言われた通りに食事して、トレーニングをして…を10カ月間、続けただけのこと。そうしたら10kg瘦せて、まさか本当に優勝できるとは。
実はコーチとの約束で、入会当日からブログを毎日書いていたのですが、そのフォロワーも大会に出る頃には2000人になり、応援のコメントも日々寄せられるようになりました。コンプレックスだらけのぽっちゃりOLが、ビキニフィットネス競技を始めたことで痩せるし、日本一になるし、フォロワーさんが応援してくれるし。人生が一気に前向きになりました。」
競技の魅力や醍醐味はどんなところに感じますか?
「筋肉の量や大きさで争うわけではなく、トータルパッケージで競うのがビキニフィットネス競技です。大会では、トレーニングによって作り上げられた曲線的な美しさや肌のツヤ、ハリ、歩き方や表情も審査の対象になります。審査される幅が広いので、全方位的に努力を重ねる必要があるという面では大変さもあるのですが、自分が理想とする美しい体をトレーニングや食事に工夫を凝らしながら健康的に作り上げられる点が醍醐味。そして、年齢に関係なく誰でも、何歳からでも始められるところも魅力です。60歳から始めたという人も少なくないんですよ。」
安井さんも30歳で競技を始め、39歳でIFBB世界フィットネス&ボディビル選手権にて世界一に輝く快挙を成し遂げました。
「私が初めて国際大会に出たときには、骨格が華奢な日本人が世界で勝てるようになるのは遺伝子レベルで1万年先だといわれていました。それが悔しくて。何か方法はあるはずだと考え、日本人ならではのウエストの細さを生かして肩幅との差を見せることで、理想のボディづくりを目指すことにしました。結果、世界の頂点に立つことができました。世界一になったニュースはたくさんのメディアにも取り上げていただき、競技に興味を持つ方が増えたことがとてもうれしくて。自分の活躍が誰かの新たな一歩につながるんだと思えると、努力が報われた気がしました。」
40歳になった今もモチベーションを保てている最大の要因は何なのでしょうか。
「いちばんは、コーチをはじめ、家族や職場の同僚、ブログやSNSのフォロワーなど、応援してくださる皆さんの期待に応えたいという思いです。世界一になることが恩返しになると信じて、今も挑戦を続けています。実は、10月にスペイン・マドリードで開催されたIFBBアーノルドクラシックヨーロッパ2024では連覇を狙っていたものの、結果は2位。ものすごく悔しくて、帰りの飛行機の中でもずっと泣いていました。でも、負けて終わりではみんなに顔向けできない。12月に控えたIFBB女子世界選手権では悔し涙ではなく、もう一度、世界一になってみんなを喜ばせないと自分の気が済まないって思ったんです。できるだけのことをやって、史上最高の自分をつくろうって腹をくくりました。」
負けて終わりたくない。勝って人を喜ばせたいという熱い思いが伝わってきます。
「一度負けると、自分はもう終わりなんだ、限界なんだと競技をやめてしまう選手ってとても多いんです。はたから見ていて、それがとてももったいなく感じて。考えてみれば、負けることも大切な経験ですよね。負けることを怖がるのではなく、挑む強さを持つ選手でありたい。今、そう思えているのも、ビキニフィットネスを始めたからなんです。トレーニングのつらさも、大会の過酷さも克服したからこそ味わえる達成感や成長。痛み無くして成長なし、ということを今、まさに実感しています。」
次なる目標となった2024年のIFBB世界フィットネス選手権大会は男子ワールドカップとともに東京がその舞台になります。
「去年、世界一になったのはフィットモデル部門でしたので、今年はビキニフィットネスでの頂点をつかみたいです。大会まで残された時間はわずかですが、食事やトレーニングの工夫など、やれることはまだまだあります。それこそ、スペインでの悔しさもあり、自分の心に火がついている状態ですので、ここから一気に高みを目指していきます。」
大会の見どころもぜひ教えてください。
「世界50カ国から選手が参加し、年齢、身長などで細分化され、トータルでは100を越えるクラスが用意されているので、観戦していても飽きないと思います。トレーニングや減量など、日々の過酷な努力を経てステージに立つ選手の姿は美しくもあり、たくましくもあり、見ているだけで心を動かされるものがあるはず。38年ぶりに日本で開催される世界最高峰の大会ですので、より多くの方に会場に足を運んでいただけたらうれしいです。」
選手はもちろん応援などで東京を訪れる方に、おすすめの食べ物があれば教えてください。
「おはぎ、ですね。タンパク質と糖質がメインのおはぎはとってもヘルシーなスイーツで、私の大好物。和菓子屋さんにはだいたい置いてあるのですが、中でもおすすめは、有楽町の東京交通会館の中にある『甘味おかめ』。ここのおはぎは、出来たてのホカホカの状態で食べさせてもらえるんです。取材NGのお店なのでメディアではなかなか紹介されないのですが、おすすめです。銀座で観光やショッピングをする際にはぜひ味わってみてください。」
安井友梨
YASUI Yuri
1984年生まれ、愛知県出身。外資系銀行員だった30歳のときにビキニフィットネスに出会う。競技歴10カ月で出場したオールジャパン・フィットネス・チャンピオンシップスで優勝し、現在9連覇中。JBBFフィットネス・ジャパン・グランドチャンピオンシップスでは5連覇中。国際試合では、2023年に行われたIFBBアーノルドクラシックヨーロッパでフィットモデルの部で総合優勝。2023年のIFBB WOMEN’S FIT-MODEL WORLD CUPでは172cm以下級で優勝。同大会で日本人初の世界一に輝く。