08/20/2024

パラバドミントンでパラリンピック2連覇を目指す
-里見紗李奈さん

INDEX

スピード感や相手との駆け引きが競技の魅力

東京2020パラリンピック競技大会で新競技として採用されたパラバドミントンに出場し、単複金メダルの偉業を達成した里見紗李奈さん。高校3年生のときに交通事故に遭い、車いす生活を送るようになってから5年後につかんだ栄光でした。「パラバドミントンに出会って人生が輝き出した」と話す里見さんに、競技の魅力やパリ2024パラリンピック競技大会への意気込みを語っていただきました。

新たな希望を生んだ仲間との出会い

高校3年生になって間もない2016年5月。交通事故に遭い、脊髄を損傷し車いす生活になった里見さん。青春を謳歌している中での出来事だけに精神的なショックも大きかったのではないでしょうか。
「入院生活は9カ月にも及び、退院しても車いす姿を人に見られるのが嫌で、外出する気にはなれませんでした。ふさぎ込んでいる私を見て、動いたのが父。父はなんとか外出するきっかけをつくろうと、自宅の近くでパラスポーツができる場所を探してくれたんです。それがパラバドミントンとの出会いでした。」

中学生のときに部活でバドミントン部に入っていた里見さん。初めてパラバドミントンのクラブに足を運んだときの印象はどうだったのでしょうか。
「皆さんがとても楽しそうにプレイしている姿が印象的でした。クラブの皆さんの中には一人暮らしをされている方がいると聞き、驚きました。なぜなら、自分は一生、誰かの手を借りないとどこにも行けないと思っていたから。それだけに、自立して生活し、その上でスポーツにも真剣に取り組んでいる方の姿に刺激を受けました。自分もあんなふうに楽しく生活が送れるのかもしれないと思うと、なんだかワクワクしてきて。車いす仲間に会って、みんなで打ち合うのを楽しみにクラブに通うようになりました。」

気持ちを思い切り乗せて戦えるのが楽しい

里見さんから見て、パラバドミントンの魅力はどんなところに感じるのでしょう。
「基本的なルールは一般的なバドミントンと同じで、21回、自分のコートにシャトルを落とした方が負け。シャトルを落とさないように拾って、拾って、拾いまくる。そして相手がシャトルを落とすように、狙いを定めて打つ。要は諦めずに最後の最後まで粘った人が勝つ。そのシンプルさが一番の魅力だと思います。」

その打ち合いを車いすで行うというところに難しさを感じます。
「コート内を移動する際に車いすをこぐのも手、ラケットを握るのも手。足を使えないことがこんなにももどかしいものかと痛感しました。でも、条件は相手も同じ。いかに速く車いすをこいで、シャトルの下に入り込むかですよね。相手が苦手とするところを見抜きながら、競り合う、ヒリヒリとした展開やスピード感、緩急つけた駆け引きなどはバドミントンならではの面白さだと思います。私は、試合中に声を出すタイプで、ギリギリのところを狙われたときなどは『お願い!届いて!』と叫ぶこともあります。気持ちを思い切り乗せて戦える、それが私にとってのパラバドミントンの醍醐味です。」

勝利への思いを燃やし続けた東京2020大会

事故から約1年後にパラバドミントンに出会い、そこからアスリート人生が始まります。
「最初は、ここまで本格的に取り組むとは思ってもいなかったんです。火がついたのは、競技を始めて3カ月後に出場した大会でボロ負けしてから。相手は日本代表選手ですから負けて当たり前なのですが、それが悔しくて。自分の中で眠っていた負けず嫌いの性格が突然、目覚めました。強くなりたい!勝ちたい!試合に出て結果を残したい!そうした気持ちが一気に湧いてきたんです。」

競技を始めてわずか2年後のTOTAL BWF パラバドミントン世界選手権でシングルス優勝。そして、東京2020大会では単複金メダルの偉業を達成するなど、その活躍ぶりは目を見張るものがあります。
「確実に言えるのは、私一人の力でここまで来たわけではないということです。支えてくれたコーチ陣や仲間がいてくれるからこそ、余計に勝ちたい、勝たなければという思いになるんです。時には、対戦相手の国で戦うこともあるのですが、私の場合、そのシチュエーションが逆に燃える。例えば自分がポイントを取ると、会場中からブーイングが起きたり、逆にミスをすると歓声が湧き上がったりする。そんなときは『こんなアウェーの中で、勝てたらカッコイイ!』と思うんです。」

東京2020大会では、まさに逆境での強さが生きていました。
「シングルスの予選リーグで中国の選手に敗れてしまって。勝てるともくろんでいただけにショックでした。ここで落ちるわけにはいかない。そう思って、トレーナーやコーチ、家族などこれまで自分を支えてくれた人たちに連絡を取って、アドバイスをたくさんもらいました。一人で悶々として煮詰まってしまうよりも、周りからの冷静な視点や何げない会話を通して気持ちを落ち着かせ、集中力を高めたくて。おかげで、それ以降の試合は積極的に攻めることができました。」

結果、予選リーグで負けた相手との再戦となった準決勝では、戦術を変えてストレート勝ちをし、決勝進出。決勝はファイナルまでもつれ込む大接戦。
「第1ゲームを14-21で落とし、続く第2ゲームでは前半リードしていたものの後半に逆転され、一時15-18と土俵際まで追い込まれました。しかし、ここで気持ちを切らさず再逆転を果たし、第2ゲームを奪取。絶対に負けたくない、勝って、初代チャンピオンになるんだという一心でした。その後、第3ゲームも21-13で制して、金メダルを手にすることができました。あのときの達成感とプレッシャーからの解放感は忘れられません。」

日本の皆さんに歓喜を再び届けたい

現在、パラバドミントン女子シングルス世界ランキング1位という輝かしい位置にいる里見さん。パリ2024大会では2冠の期待がかかっています。
「完全に追われる立場で、私の戦術をみんなが研究して試合に挑んでくるわけですよね。それに加え、勝って当たり前というプレッシャー。正直怖いです。でもやっぱり勝ちたい。もう一度、表彰台の頂点に立ってみんなを喜ばせたい。前回大会は周りを何度もヒヤヒヤさせたから、今度は安心して応援してもらえるような試合をする。それが目標です。日本とパリとではかなりの時差がありますが、日本の皆さんの眠気を覚ますような歓喜を届けられるように、頑張ってきます。」

車いす生活になり、パラバドミントンに出会ったことで、人生が輝き出したという里見さん。オフの時間は外の空気を吸いながら日本ならではの四季の移ろいを感じるのが好きなのだそう。
「冬の冷えた空気から温かな空気へと変わる初春。キンモクセイの香りで季節が変わったことに気付く秋。カレンダーの日付だけではなく、どこにいても空気感や香りで季節の変わり目が分かるのが日本の魅力だと思います。気分転換をしに出かけるなら、鎌倉の小町通りが好きです。車いすでも移動がしやすくて、わらび餅やお団子などの和菓子を味わいながら観光するのが私流の楽しみ方です。車いすユーザーや海外からの観光客にもおすすめのスポットなので、ぜひ足を運んでみてください。」

里見紗李奈
SATOMI Sarina
1998年、千葉県出身。NTT都市開発所属。高校3年生のときに交通事故に遭い脊髄を損傷、両下肢に障がいが残る。事故から1年後の2017年春からパラバドミントンを始める。TOTAL BWF パラバドミントン世界選手権2019女子シングルス優勝、女子ダブルス3位。東京2020パラリンピック競技大会では単複金メダルの偉業を達成。ヒューリック・ダイハツBWFパラバドミントン世界選手権2022女子シングルス、女子ダブルス優勝。NSDF Royal Beach Cliff BWF パラバドミントン世界選手権2024女子シングルス3位、女子ダブルス3位。パリ2024パラリンピック競技大会では2連覇を狙う。