07/24/2024

自分を信じて演技をし、目指すは体操競技の世界の頂点
-谷川航さん

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今回、お話を伺ったのは体操男子団体総合で銀メダルを獲得した東京2020オリンピック競技大会に続き、パリ2024オリンピック競技大会に出場が決まった谷川 航さん。ジュニア時代から活躍する谷川さんに、体操競技の魅力とともに、2大会連続となるオリンピック出場に向けての意気込みを語っていただきました。

体操をやる楽しさは昔も今も変わらない

はじめて体操に触れたのは幼稚園のときだったそうですね。
「通っていた幼稚園に体操の時間があり、跳び箱などを楽しみながらやっていました。もともと体を動かすのが得意だったこともあり、小学校入学と同時に体操クラブに入り、そこから体操にどっぷり。性格的に、負けず嫌いということもあって、友達よりも跳び箱を跳べるようになりたいという競い合う気持ちや新しい技に挑戦し、それができたときの達成感が、練習をする楽しさにつながっていきました。その思いは、体操を始めたときから今も変わりません。」

航さんの背中を追うように、2学年下の弟の翔さんも体操を始め、兄弟での活躍も注目を集めています。
「子どもの頃はさすがに僕の方が上を行っていたのですが、だんだんと翔も実力をつけてきて、気付いたら実力は同じくらいになっていました。中学生になったときかな、初めて翔に負けたのは。そこからはどちらが勝っても負けてもおかしくないくらい。翔とは、小さい頃からけんかをした記憶がないくらい仲良しで、兄弟であり、ライバルであり、仲間でもあり、切磋琢磨し合いながらお互いを高め合える大切な存在です。」

体操の魅力はどんなところに感じますか。
「なんといっても、新しい技ができたときの喜びですね。地道に練習を積み重ね、難易度の高い技がやっとできたときはうれしいし、それを試合で成功させ、最後の着地をビタッと決めて会場からの歓声を耳にしたときは最高に気持ちがいいです。もちろん、大事な場面で失敗をして試合で敗れるなど、うまくいかないこともあります。そんなときは、もう無理かもと諦めたくなるのですが、次の日には、どうやったら失敗しないのか、勝てるのかという思考になる。そのくらい自分にとって体操競技は興味が尽きず、魅力のあるものです。」

技は99%の完成度で初めて使えるもの

体操男子には、「ゆか」「あん馬」「つり輪」「跳馬」「平行棒」「鉄棒」の6種目があり、中でも谷川さんは跳馬に定評があります。
「跳馬は一瞬で勝負が決まります。その一瞬にどれだけ練習時間を費やしてきたかが演技に凝縮して表れるのが跳馬の魅力であり、醍醐味だと思います。僕の得意技でもある『リ・セグァン2』は縦の回転と横のひねりを掛け合わせた大技で、他の日本人選手はあまりやっていません。だからこそ、世界の舞台で活躍できるチャンスを得られるし、団体戦ではチームに貢献もできる。僕にとって跳馬は最大の武器であり、存在価値にもつながっているものでもあります。」

跳馬とは違い、つり輪などの種目は、静と動が目まぐるしく変わる展開も見どころになってきます。
「止めるところは姿勢よく、しっかりと体を静止させる。一方、回転などはダイナミックに動き、最後の着地をバシッと決める。この一連の流れを完璧にしてようやく成功ですから、見ている側も最後まで息がつけませんよね。最後の着地まで勝敗が分からないところも目が離せないポイントで、観戦する楽しみにもつながるはずです。競技者としては、最後まで諦めずミスなくやり切ることが何より大切で、それをやり切れる選手が強いということになります。」

日頃の練習の成果をプレッシャーのかかる試合で出し切れるように、ご自身が心掛けていることはどんなことなのでしょうか。
「自分を信じ、思い切って演技に臨むことです。そのためには、『これだけやったから大丈夫!』と、自信を持って挑めるだけの練習をするしかありません。練習では、心配のタネをとことんつぶし、技は99%の確率で成功させるくらいに完成度を高める。どんなに難易度の高い技でも、2回に1回成功するくらいでは試合では使えません。イチかバチかでは勝負できないからこそ、日々の練習が重要になってくる。自分も含めて、世界で活躍する選手はそうした日々の積み重ねを経て、試合に挑んでいます。」

金メダルを逃した悔しさが次の一歩に

初出場となった東京2020大会では、男子団体総合で銀メダルを獲得しました。
「東京2020大会は、チーム全員がお互いに信頼し合い、自信を持って臨んだ結果、計18本の演技を全てノーミスで終えることができました。初めてのオリンピックでメダルも手にし、試合が終わった直後までは満足感に浸っていました。でも、冷静に試合を振り返ると、『あのときの着地をもっときれいに決めていたら…』という悔しさが湧いてきて。細かなミスこそが0.103点という僅差でROC(ロシア・オリンピック委員会)に負けた敗因。そうした克服すべき明確な課題が分かったことも大きな収穫でした。」

大会後の活躍も目覚ましく、イギリス・リヴァプールで開催された2022年世界体操競技選手権の男子団体総合で銀メダル、男子個人総合で銅メダルを獲得。翌2023年に中国・杭州で開催されたアジア競技大会では種目別跳馬で金メダルに輝きました。
「東京2020大会では個人の予選で跳馬を失敗して決勝に進めなかった悔しさもあっただけに、個人で金メダルを取れたことで自信につながり、パリ2024大会出場への足掛かりとなりました。」

己との戦いこそが体操競技の醍醐味

パリ2024大会も目前です。今の意気込みをお聞かせください。
「これまで積み重ねた練習や経験を最大の強みに、一つ一つの演技に挑み、団体でも個人でも目指すは金メダルです。団体ではチーム一丸となって戦いながらも、その中から誰が個人総合に出られるかという争いもあります。争いといっても、体操競技は相手と直接戦うのではなく、自分が今までやってきたことをどれだけ出せるかという己との戦いです。
僕個人としては、代表に内定している5人だけではなく、補欠のメンバーからの『いつでも代わってやるぞ!』という下から突き上げるようなプレッシャーがいい刺激になっています。選手同士が切磋琢磨しながら、それぞれに高みを目指す。そんなチームJAPANを構成する一人一人の演技にぜひ、注目していただきたいです。」

最近では、スポーツ観戦を機に来日される外国人観光客も増えています。谷川さんおすすめの日本での楽しみ方を教えてください。
「僕が最近はまっているのがサウナです。地元の船橋市でも個室タイプのサウナなど、新しい施設が増え、リラックスしながら気軽に心と体を整えるのにうってつけです。食べ物でいえば、うなぎの蒲焼きがおすすめです。やわらかな身と甘辛いタレが口の中で混ざり合う味わいは外国の方にも喜ばれるはず。これからの季節は、サウナで汗を流し、うなぎでスタミナをつけて、日本の夏を楽しんでください。」

谷川 航
TANIGAWA Wataru
1996年、千葉県出身。高校3年時の全日本体操競技種目別選手権の個人ゆかで3位、大学2年時の同大会では個人跳馬で優勝し、2017年の世界体操競技選手権で初の日本代表入りを果たす。東京2020オリンピック競技大会の男子団体総合で銀メダルを獲得。2022年の世界体操競技選手権では男子団体で銀メダル、男子個人総合で銅メダル。2023年に中国・杭州で開催されたアジア競技大会では、男子団体で銀メダル、種目別跳馬で金メダル、つり輪で銅メダルを獲得。