流れのない直線コースで一斉にスタートして着順を競うカヌースプリント。新たに、女子カナディアンシングル200mと女子カナディアンペア500mが種目に採用となった東京2020オリンピック競技大会で日本代表として出場したのが久保田愛夏さんです。久保田さんが感じるカヌースプリントの魅力や次なる目標に向けて挑戦を続けるその意気込み、さらには東京をより楽しめるおすすめスポットなどを伺いました。
久保田さんがカヌーを始めたのはどんなことがきっかけだったのでしょう。
「0歳から中学生まで続けていた競泳で全国大会を目指していたのですが思うようには成績が伸びなくて…。行き詰まりを感じていた中学2年生の時に、学校で東京都ジュニアアスリート発掘・育成事業のチラシが配られたんです。そのチラシを見た友達に一緒に応募してみない?と誘われたのがきっかけでした。興味本位で応募した選考会で、7種目の競技を体験した結果、合格し、カヌーの育成プログラムに参加することになったのです。」
複数ある競技の中でも最初からカヌーに興味を持ったのでしょうか。
「もともと競泳をやっていたので、水に関わるボートやカヌーがいいなとは思っていました。157cmという私の身長では、ボートよりもカヌーの方が向いているというアドバイスもあり、高校に入って本格的にカヌーを始めました。」
実際にカヌーをやってみた感想はいかがでしたか。
「カヌーってバランスを取るのがとっても難しいんです。長さはおよそ5m、重さも10kg以上あるのに幅はわずか50cmほど。慣れないうちは、すぐにひっくり返って水の中に落ちてしまう。でも、私は水の中に落ちるのは全然怖くなくて、むしろ面白い!と思いました。うまく艇を操れるようになると、水上から見える景色の美しさにも魅了されました。春の桜や新緑、夏の青空、秋の紅葉など自然の美しさを体感できるので、競技だけではなく、レジャーとしても楽しめるスポーツという点にも新鮮さを感じました。」
カヌー競技の中でも久保田さんが出場する種目は艇をこぐ速さを競うスプリント。競技の魅力や見どころとは?
「競技する側としては、普段は体験することのできないスピード感を味わえるのが一番の魅力です。200mを競うシングルともなると、0.01秒を争うことになるので、勝敗が決まるのは一瞬。観戦していても片時も目が離せず、ゴール際での迫力はその最たるものです。
ペアでは、いかにパドルの動きを二人で合わせるかがカギ。体重も、パドルをこぐピッチ数も、動かし方も違う二人がどれだけ息を合わせられるかがスピードに大きく影響します。そのために、座り方や位置まで二人でミリ単位で調整を行います。そして、お互いがベストのこぎ方ができるように思いやることも大事です。そうしたお互いの意思の疎通や思いやりが結果に直結するのも、シングルとは違った魅力ですね。」
逆に、競技をする上での難しさはどんなところに感じますか?
「体重が重いと艇が安定し、筋力があればパドルをこぐ力も入るので、小柄な自分は身体的には不利なところがあります。また、流れの無い静かな水面をこぐ競技とはいえ、屋外で行われるため、左右どちらか片方のみをパドルでこぐカナディアンカヌーは、そのときの風向によって有利不利が生じます。選手たちは、あらゆる状況でも、自分のベストを出せるようにパドルや艇を操る技術を磨いていかなければなりません。例えば、水にパドルをどのように入れ、水をいかにしっかりとつかみ、水面から抜くか。そうしたテクニックを磨くことでより速いタイムをたたき出すのです。想定外のことを生む状況や、それを克服する選手の技術によって、最後まで勝敗が分からないというのもカヌースプリントの奥深さだと思います。」
久保田さんは、東京2020オリンピックでは、スプリント女子カナディアンシングル200mと女子カナディアンペア500mに出場されました。
「高校生で競技を始めて以来、目標としていたオリンピックに出場できたこと自体、光栄でした。自分なりに出せる力は出し切ったものの、残念ながら結果は決勝には進めずじまい。これも一つの区切りだと思い、大会後は、一線から離れて、所属チームのある岐阜県を拠点に小・中・高生に指導をしたり、パラアスリートのサポートに専念していました。」
そこから1年後に代表復帰を果たされます。どんな心境の変化があったのでしょうか。
「かつて一緒に競い合っていた仲間が変わらずに世界選手権などで奮闘している姿をライブ配信などで見て、刺激を受けました。自分では、オリンピックで力を出し切ったなんて言ったけれど、そうじゃない。本当はもっといい結果が残せたはずだと悔しかったんだ、と。みんなの姿を見るうちに素直にそう思えるようになったんです。それと、ありがたいことに一緒に日本代表として活動していた皆さんから『戻ってきなよ!』と言っていただけたことも重なって、復帰を決意しました。」
東京都出身でもある久保田さんから見て、東京の都市としての魅力はどんなところに感じるのでしょうか。
「東京というと、皆さん大都会をイメージされると思うのですが、私の実家がある清瀬市は田園風景が広がるのんびりとした地域。野菜がたくさんとれて、夏にはヒマワリ畑が広がり、ホタルを見ることもできる自然豊かな場所です。都心から電車で30~40分程度でそうした田園エリアに行けるのも東京の魅力だと思います。」
オリンピックを機に、カヌーへの注目度が高まっています。都内でカヌーが体験できるおすすめのスポットがあれば教えてください。
「江戸川区内を流れる旧中川では、カヌーをこぎながら水上観光を楽しむことができます。カヌーのこぎ方などのレッスンも行われるので初心者でも安心。川沿いの桜や東京スカイツリーを水上から眺めることができるなど、充実した内容で人気を集めているようです。観光しながらカヌーの魅力を体感できるので、おすすめです。」
久保田愛夏
KUBOTA Manaka
1996年、東京都出身。ぎふ瑞穂スポーツガーデン所属。東京都が実施するトップアスリート発掘・育成事業をきっかけに、高校生の時に本格的に競技を開始。第18回アジア競技大会(2018/ジャカルタ・パレンバン)カヌースプリント女子カナディアンペア500m4位。2019年世界カヌースプリント選手権大会女子カナディアンペア500m 9位。令和2年度SUBARU日本カヌースプリント選手権大会女子カナディアンペア500m優勝。東京2020オリンピックでは、カヌースプリント女子カナディアンシングル200m、女子カナディアンペア500mに出場。