08/29/2022

人生を変えたボッチャとの出会い
-杉村英孝さん

INDEX

負けた悔しさを糧にして掴んだ金メダル

東京 2020 パラリンピック競技大会のボッチャ競技で日本人として個人初の金メダルを獲得し、キャプテンを務めた団体では、銅メダルという快挙を成し遂げた杉村英孝選手。脳性まひのために両手足が不自由で幼い頃から車いす生活を送ってきた人生を大きく変えたのがボッチャとの出会いだったそう。杉村選手が思うスポーツの魅力、そして、東京 2020 パラリンピック競技大会を経てあらためて感じた東京の魅力について伺いました。

技術、戦略、心理戦が入り混じる競技

ボッチャは自球の赤いボールと青いボールを6球ずつ持ち、投げたり転がしたり蹴ったりしながら、ジャックボールと呼ばれる白い目標球に近づける競技。杉村選手とボッチャとの出会いは高校3年生のとき。

「もともとスポーツはするのも見るのも好き。継続的にプレイできる競技をはじめてみたいと考えていたときに、施設の先生から紹介されたのがボッチャでした。国際大会のビデオを見せてもらうと、ルールはシンプルでありながら、投球技術や戦略、相手との駆け引きなど繊細な部分もある。なかなか奥が深い競技だなと思いました」

友人に静岡県内で開催される大会の団体戦に出てみないかと誘われ、急遽、練習開始。結果は見事、3位入賞。

「チームとしては3位になりましたが、僕個人としては負けたことが悔しくて。ボールが思うように投げられないもどかしさや戦略の甘さなど、反省すべきところがどんどん出てくる。どうすれば勝てるのかと悶々と考えていくうちに、あっという間にボッチャにのめり込みました」

ドラマチックな展開も見どころ

試合では、残された球数を考慮し、全神経を集中させてボールを投げるなど、息の抜けない戦いが繰り広げられるボッチャ。

「一投ごとに形勢が変わるボッチャは、観戦していても見ごたえがありますよね。1ミリの隙を狙う投球の繊細さや大胆な戦略など、勝敗のカギもなかなか複雑です。観戦するときには、選手が投げる1球の意図を読み解きながら、次にどんなショットを投げるかを予想してみるとより楽しめると思います。その予想をはるかに超えたプレイを見せてくれるのが一流の選手たちです。パラリンピックで実際の試合を見て、自分もやってみたい!と思われた方も多いのではないでしょうか」

杉村さんは、ボッチャと出会ったことで自身の人生が大きく変わったそう。

「日常生活では介助やサポートが必要な自分が、ボッチャのコート上では誰の手も借りずに自分で考え、やりたいことを決め、実行することができる。その実感を得られたことが自分にとっては大きな自信となりました。ひとりのアスリートとして“自己選択”と“自己決定”をしながら試合に挑む。それが実現できることが僕にとっては大きな意味のあることなんです。最後の一球で大逆転することができる。試合でも人生でも、そんなドラマチックな展開を与えてくれるのがボッチャという競技の魅力です」

窮地に追い込まれて発揮する真の強さ

ロンドン2012パラリンピックから3大会連続で出場した杉村選手。自国開催となった東京2020パラリンピックでは個人優勝という輝かしい成績を収めました。

「個人的に印象深かったのは準決勝。ロンドン2012パラリンピック金メダルのマシエル・サントス(ブラジル)と闘った一戦です。最終エンドまで大接戦で、ラストの1球で勝敗が決まるというまさに究極の場面。練習を重ねてきたことを思い浮かべながら投げた一球は、イメージ通り! 目標球にピタリとつけて勝利をもぎ取りました。持ち時間0。ラスト1球の勝負。自分のことながら、思い出しただけでしびれますね」

自身がキャプテンを務めた団体戦では銅メダルを獲得。

「準決勝で強豪のタイに大敗。その後、時間を置かずに行われる3位決定戦に向けて、気持ちを切り替え、チームみんなで何が課題かを話し合って試合に臨み、銅メダルを手にすることができました。考えてみれば、記憶に残っているのは、勝った試合よりも負けた試合が圧倒的。負けることで自分に課題が与えられ、その課題に向き合い、技術を高め、プレイの幅を広げることができました。負けて一層強くなる。この成長力がメダルに繋がったのだと思います」

 

 

 

共生社会を実感できる街、東京

海外での試合経験も豊富な杉村選手から見た東京の魅力は、どんなところにあるのでしょうか。

「東京2020パラリンピックで特に感じたのは、きめ細やかで丁寧な対応です。試合が終わり、選手村へ戻るとき、大会ボランティアの皆さんがバスが見えなくなるまでずっと笑顔で手を振ってくれて。整ったハード面はもちろんのこと、穏やかな気持ちで競技に集中できるのは、人の優しさに触れられる日本の大会ならではだと思います。東京の街はとくに、新しい施設や駅はバリアフリー化されているのでユーザーでも街に出やすく、利便性が高い点も魅力ですね」

最後に、スポーツ観戦で日本および東京に足を運ぶ方へメッセージをお願いします。

「スポーツは、見る、競技する、支えるなど、あらゆる立場で関わることができるもの。それをより実感できるのがパラスポーツです。日本ボッチャ協会では、障がい者、健常者、老若男女関係なく、あらゆるチームが対決する『ボッチャ東京カップ』なども開催されています。みんなが同じステージで競技をしたり、生活するにはどんな工夫が必要なのか、ぜひそんな視点で観戦や観光を楽しんでみてください。そうすれば、国の壁を超えた共生社会の実現にもきっとつながると思います」

<プロフィール>
SUGIMURA Hidetaka
有限会社伊豆介護センター所属。
1982年、静岡県出身。2000年、高校3年生のときにボッチャに出会い、競技を開始。パラリンピックはロンドン2012大会から3大会連続出場。リオ2016大会(Team BC1-2クラス)団体銀メダル。東京2020パラリンピック競技大会では個人(BC2クラス)金メダル、団体(Team BC1-2クラス)銅メダルを獲得。得意技は、密集するボールの上に自球を乗せジャックボールに接触させる「スギムライジング」。