03/04/2024

パラ卓球の普及にも努め、目標は“金メダル以上”
-岩渕幸洋さん

INDEX

卓球でパラリンピック2大会連続出場

今回、ご紹介するのはリオ2016パラリンピック競技大会、東京2020パラリンピック競技大会と、2大会連続出場し、東京2020パラリンピックでは日本選手団の旗手を務めた岩渕幸洋さん。日本のパラ卓球のエースとして活躍する岩渕さんに、東京2020パラリンピックでの思い出やパリ2024パラリンピック競技大会への意気込み、さらには東京観光の魅力などを語っていただきました。

卓球台の前に立ったら障がいの有無は関係ない

岩渕さんが卓球競技を始めたのは中学校1年生のとき。卓球のどんなところに魅力を感じたのでしょうか。
「もともとスポーツが好きで、中学校に入ったら、ラケットを使う競技をやりたいと考えていました。候補に挙がったのは、テニス、バドミントン、卓球。テニスとバドミントンはやはり圧倒的に走る量が多くて。僕自身、走れなくはないのですが、長い目で見て、やるなら卓球かなと考え、入部を決めました。」
 実際に卓球を始めてみていかがでしたか。
「卓球って、選手一人一人が自分のスタイルというものをしっかりと持っていて、体格による差がそれほどない。技術的なところで駆け引きをしながら勝負ができるというところに面白さを感じました。僕の場合は足にハンデがあるのですが、健常者の選手と一緒にプレーをすることもできます。障がいの有る、無しにかかわらず、同じ競技を同じルールでやれるというのもいいなと思いました。」
試合では球のスピード感も含め、激しいプレーが展開されます。
「真剣勝負の世界ですから、相手の障がいがある箇所を容赦なく攻めていくことは当然あります。僕の場合ですと、左足が悪いので、左側に大きく揺さぶられるとふんばりが難しい。ですので、相手としては迷わず、そこを狙ってきます。だからといって、障がいがあるから、そこを攻めるのはかわいそうとか、アンフェアとはなりません。卓球台の前に立ったら、障がいなんて関係ありません。双方が全力で戦いに挑むのが卓球であり、スポーツなのだと思っています。」

目まぐるしく攻守が入れ替わり、スピード感もあるゲーム展開が特徴なだけに、試合では集中力も問われそうです。
「試合では、相手の動きを予測し、何手も先読みしながら、球の狙いどころを定めてピンポイントで突いていきます。それに加え、流れを自分に引き寄せるためにも、気持ちの切り替えというのが一つのポイントになります。例えば、タオルで汗を拭いたり、卓球台の周りを数歩、歩いたり、試合中のほんのわずかな時間に、頭の中で戦略を立て、次のプレーにつなげていきます。時には、相手がサーブするその前に、あえて一瞬の動作で間を持たせるなんてこともあります。球をからめない、そうした心理的な駆け引きが行われるのも卓球の面白さではないでしょうか。」

パラスポーツの魅力をさらに広めたい

岩渕さんがリオ2016パラリンピックに出場されたのは、大学4年のとき。初めてのパラリンピックはどんな印象でしたか。
「2013年に東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることが決定し、その後の大会だっただけに、パラスポーツも一気に注目が集まりました。とはいっても、僕自身、パラリンピックがどんなものなのか、実はよく分からなかったんです。そんな状況で出場したものだから、あまりの豪華さに、とにかくびっくりして、試合でどんなプレーをしたのか記憶がないくらい緊張しました。大会を楽しめたのは、試合が終わってから。卓球以外のパラスポーツを観戦したり、リオの皆さんの陽気な雰囲気を一緒に楽しんだり。パラリンピックってなんて素晴らしい大会なんだと心の底から感じることができました。」

そして、自国開催となった東京2020パラリンピックにも出場されました。
「東京2020大会は延期もあり、100%パラリンピックを目指して頑張りますと言い切れないなど、最後まで心に揺れが生じてしまったところがありました。1回戦は勝利したものの、次につなげることができなくて悔しい結果になり、勝つことの厳しさ、難しさを思い知りました。その一方で、多くの方が応援し、支えてくださることのありがたさも実感。パラリンピックを経験したことで、勝ち負け以上の価値を得られるのもスポーツなのだと気付かされることも多かったです。二つの大会を経験したことで、一人でも多くの方にパラ競技を見てもらい、パラスポーツの面白さ、楽しさを知ってもらうために、自分ができることをやろうという思いも強くなりましたね。そこで、今は、金メダルを取るだけでなく、競技の注目度が高まり、パラスポーツの魅力が広く認知されることが本当のゴールだと見据え、“金メダル以上”を目標に掲げ、パリ2024パラリンピックを目指しています。」

パラ卓球普及のための活動として、ご自身で「IWABUCHI OPEN」も主催されています。
「「IWABUCHI OPEN」は、コロナ禍の影響で国内外全ての大会が中止となった際に、選手が試合をできる環境をつくりたいという思いから、パラ卓球普及イベントとして2020年に立ち上げた大会です。最初の年は、選手4人が出場し、招待制で観戦してもらうといった内容でした。2023年の3月には、第3回となる大会も無事に開催することができました。今回の大会では、150人以上の観客に囲まれ25人の選手がエントリー。立位の部と車いすの部に分かれて開催し、大いに盛り上がりました。」
パラ卓球もそうですし、あらゆるパラスポーツに対しての認知度は確実に高まっているように感じます。
「そうですね。僕自身、リオ2016パラリンピックでは、車いすラグビーの試合はほとんど観戦させていただきました。1点を巡る駆け引きや、タイムマネジメントなど、興味深いところがいくつもありました。何より、障がいがある選手たちが、あそこまでの迫力で車いすをぶつけ合うことも新鮮で。引き付けられることの多い競技でしたね。パラスポーツの魅力を僕自身、もっと掘り下げてみたいと思っています。」

どこに行っても、何を食べても満足できる都市、東京

生まれも育ちも東京の岩渕さんですが、都内でお気に入りのスポットがあればぜひ教えてください。
「僕は上野恩賜公園が好きなんです。お花見でも有名な場所なのですが、広々とした敷地内には動物園や美術館、博物館が点在していて、飽きることがありません。中でも、よく足を運ぶのが国立科学博物館です。大学時代に化石の研究をしていたこともあり、恐竜など古代生物の標本を見たり、学んだりするのが楽しくて。期間によって開催されている特別展や企画展も見応えがありますし、常設展だけでも十分に面白いですよ。」

上野恩賜公園はとても広いのですが、バリアフリーといった観点から見ると、観光のしやすさはいかがですか?
「博物館や美術館はどこもバリアフリー化が進んでいるほか、公園内にある動物園も山坂があまりなく、地面がフラットになっているため、車いすの方も移動しやすいと思います。屋内も屋外も楽しめるスポットなのでぜひ足を運んでいただきたいです。」
東京の魅力的なポイントとして、他にどんなことがあるでしょうか。
「例えば外食するにしても選択肢がとても多いです。お寿司も中華も、ありとあらゆるお店があるうえに、どこも美味しい。実際に、海外から来たチームのコーチや選手からも東京はどのお店に行っても美味しいし楽しいと評判です。東京は、何をするのも、どこへ行くのもまったく困らない、とても便利な都市だと思います。」

岩渕幸洋
IWABUCHI Koyo
1994年、東京都出身。両足首に先天性の障がいを持ち、左足に装具を付けプレーをする。中学校入学と同時に部活動で卓球部に入部。中学3年時にクラブチームのコーチの誘いでパラ卓球に出合う。リオ2016パラリンピック競技大会、東京2020パラリンピック競技大会に2大会連続出場、東京大会では日本選手団の旗手を務める。パリ2024パラリンピック競技大会での活躍を目指すと同時に、パラ卓球の大会「IWABUCHI OPEN」を主催するなど、パラスポーツの普及啓発に向けて活動を続けている。